「戦略ゲームAI解体新書」読書会ログ 1, 2 章 - You are done!
今週も読書会ログ。
第3章 ゲームAIの基礎事項
3.1 ゲームAI小史
まずはゲームと AI のおおまかな流れについて年表みたいなものが示されます。
3.1.1 スクリプティッド AI
Scripted AI の出自に関して。「あらかじめ準備された行動を反射的に行うだけ」というのは、ロジックで書けばそうなるのは理解できる。
現在でも小中規模のゲームではスクリプティッドAI は使われており、大規模になるにつれて「キャラクターAI」が使われるらしい。
3.1.2 MCS-AI 動的連携モデル
- ゲームの 3D 化以降に、ゲームの中で AI が独立要素として「再発見」される。
- それらを「メタAI」「キャラクターAI」「スパーシャルAI」として分類。
- これらが動的に連携するモデルを「MCS-AI 動的連携モデル」と呼ぶらしい。
Meta-Character-Spatial AI Dynamic Cooperative Model
人工知能という用語的に、AI というとキャラクターAIが真っ先に想像できて、次にメタAI のようにゲーム展開を作るような AI も想像できるけど、スパーシャルAI のようなものも「AI」と呼ぶというのは、個人的には直感的ではない気もするけど、分類の仕方としては納得できる。
3.2 3つのAIの役割とスケールとプレイヤー体験
前述の 3 つの AI を分つの 役割とスケール
キャラクターAI
- スケールは「局所・短時間」のユーザー体験
- キャラクターに内蔵されるAIで、プレイヤーと直接対決を行う
メタAI
- スケールは「大局・長時間」のユーザー体験
- 「スパーシャルAI」の助けを借りて、ゲーム空間全域の変化やゲームの時間方向の展開を作る
スパーシャル AI + ナビゲーションAI
- 「メタAI」「キャラクターAI」が活用できる空間情報を提供する
- ユーザー体験を空間内でデザインする力を持つ
デジタルゲームの目的
ユーザー体験を作り出すこと
時間的・空間的に段階的にゲームがスケールしていくというのは、戦略ゲームでなくとも、いろんなゲームをしていると感じるところはある。
AI の影響
ストラテジーゲームの場合
- 通常スパーシャルAIの影響が大きい(地形の特徴を捉えて活用することが戦略ゲームの本質)
- メタAIはゲームの流れを作るので比重が大きい
アクションゲームの場合
図もわかりやすい。
3.3 メタAI技術
古典的メタAI
- 「難易度自動調整」「ダイナミック・ディフィカルティ・アジャストメント (Dynamic Difficulty Adjustment, DDA)」とも呼ばれる
- 難易度を動的に(ゲームを進行させながら)ユーザーのスキルに合わせる
例で出てくるゼビウスがどのように難易度調整をしていたかは以下の記事が理解の助けになりました🙏.
「ゼビウス」における動的難易度調整 - 大和但馬屋日記
現代的メタAI
- アセットを自動生成する「プロシージャル技術」と結びつき、ゲームを創造的に変化させることができる
- 「AIディレクター」と呼ばれる、キャラクター操作に限定したゲームをコントロールする仕組みがある
- ユーザーの緊張度を測定し、それに応じて敵の出現数を決定
- ユーザーの緊張度を人工的にアップダウンさせる
AI ディレクター (Director AI)という言葉は Left 4 Dead というゲーム自体が導入した言葉だと友人に教えてもらいました。
- https://steamcdn-a.akamaihd.net/apps/valve/2009/ai_systems_of_l4d_mike_booth.pdf
- The Director AI of Left 4 Dead | AI and Games #07 - YouTube
3.4 キャラクターAI
エージェント
自律型エージェント
- 自律型AIを持つエージェント
- 「自分自身のことを自分で決めることができる」
- 「目的(役割)」をもち、それに沿って感じ・考え・行動する
ストラテジーゲームの発展は、自律型エージェントの発展と結びついているらしい。
変遷みたいなもの
- 80’s-90’s のゲームは、「スクリプティッドAI」で、「簡単なロジック」で動いていた
- 現代の「キャラクターAI」は自律型エージェントとして機能する
- スクリプティッドAI: AI製作者の頭脳にゲーム状況と思考がある
- 自律型エージェント: AI が自分の知識と思考を使い意思決定・行動
エージェント・アーキテクチャ
- いかにエージェントに知識を持たせ、自分で考えさせるか
- センサーで情報を収集、認識を形成、意思決定によって方針を決め、アクションメイキングで行動を生成する。また、これらを記憶するメモリを持つ。
- このような全体のアーキテクチャのこと
2.5.5 の図がここで改めて理解の助けになる。
3.5 スパーシャルAI
ユーザーがキャラクターに知能を感じるとき
- 空間を上手に使った時
- 時間の中で賢く戦略を立てて行動した時
- 空間と時間を利用することが、知能の特性であり証明
スパーシャルAI の機能
キャラクターAI、メタAI が空間を巧みに活用するための情報を提供する。
「パス検索」「位置検索」「オブジェクト表現」「勢力解析」の4つに分類。
パス検索
- 目的地までの経路探索
- 敵の目的地がわかっていれば、敵の現在地から目的地までの経路予測 => 予測経路を「ゴールデンパス」とも呼ぶ
- ゴールデンパスを使って、敵ならば挟み撃ち、味方ならば護衛などができる
位置検索
- 候補ポイントから評価値によって適切な場所を算出する
- 「戦術的位置検索」という手法もある
オブジェクト表現
- ゲームのオブジェクトに埋め込まれている補助データ
- メタAI/キャラクターAI が認識し利用する
- 動かせるか?伐採できるか?資源にできるか?
人工知能は「知識 x 思考」からなるので、環境やオブジェクトの知識を持っておき、オブジェクトを賢く使えるかが高度な人工知能を作る鍵と言えるらしい。
3.6 影響マップ
スパーシャルAIの「勢力解析」機能。
複数の駒が置かれた時に、「リアルタイムの勢力図」を作るために利用される。Influence Map ともいう。
原理
- 敵を熱源、味方を冷却源とした簡単な熱伝播シミュレーション
- 敵味方の中間にある、温度がゼロの領域を「フロントライン」と呼び、そこは勢力が均衡している
フロントライン
フロントラインは勢力の変化の目印でもあり、メタAI がフロントラインを動かすために、天候や風向きを変化させたり、敵の増援を行ったりする。
影響マップを使うことで動的にゲームをコントロールすることができる
3.7 知能方程式
知能感受性
ユーザーが AI に対して知能を感じる「知的体験」はキャラクターの賢さだけでなく、ユーザーの心理状態が影響する。
ポイントとしては以下がある。
- プレイヤーの意図の強さ
- プレイヤーの生存の危険度
- 敵の人間との類似性
プレイヤーがキャラクターに感じる知能は、このユーザーの「知能感受性」の高さと、敵の賢さを掛け算したものになるらしい。これを知能方程式と呼ぶとなっている。
「敵知能の高さ」は純粋な人工知能の話であり、ゲームエンジニアの仕事であるのに対し、「知能感受性」はゲームデザインの領分とも言える。
どちらが欠けても「知能を感じる」ユーザー体験は作れない。
ロジック中心のボードゲームとエンターテインメント要素のあるビデオゲームとの違いが、このユーザー体験にもつながっているのが面白い。